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腫瘍の検査と治療

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 以前は犬の寿命は10年くらいと言われていました。しかし、フィラリア症の予防や伝染病の予防のための混合ワクチンが普及し、飼育環境や治療技術が改善したことにより、平均寿命が15年を越えるような時代になりました。寿命が延びたことは大変喜ばしいことですが、犬も高齢化に伴い病気が変化してきました。最近は、犬の死亡原因の上位リストに腫瘍が必ず入ります。

早期発見&早期摘出


 犬や猫の体にしこりを発見したら、すぐに診察を受けてください。見た目で腫瘍を判断することはできませんが、統計に基づいて今後どうすべきかをお話することはできます。例えば、口の中にできた腫瘍は悪性のことが多い、雌犬の乳腺腫瘍は50%が悪性で雌猫の乳腺腫瘍は90%が癌であること、犬の前立腺癌は非常にまれ、雄犬の肛門周囲の腫瘍は良性などが知られています。また、皮膚の腫瘍は注射針で細胞を採り病院の中で簡易検査ができます。
 腫瘍が悪性の場合は、早期に手術で摘出することが唯一の完治療法です。



病理検査の重要性


 摘出した腫瘍は、①どんな種類、②良性または悪性、③組織の切除範囲、④血管およびリンパ管への侵潤の有無などを検査センターに送り調べます。費用は1組織1万円ほどかかりますが、手術後の回復を知る上で欠かせない検査です。抗癌療法を検討する場合は必須になります。



外科切除以外の腫瘍の治療法


①抗がん剤
 現在、多種多様な抗癌薬が開発されていますが、全ては人間用を動物に転用しています。犬のリンパ腫の場合は、抗がん剤使用のメリットがデメリットを大きく上回る場合があり、副作用が少なく腫瘍がとても小さくなり寛解と言われる期間を得ることができます。治療効果は通常1~2年ぐらいですが、まれに5年以上健康状態を維持できる場合があります。また、犬の肥満細胞腫の場合は、従来の抗癌治療では1年生存は難しい状態でしたが、最近、分子標的薬が有効であるという研究が発表されました。これは肥満細胞腫の一部(C-kit遺伝子異常のあるもの)に非常に有効で副作用の少ない素晴らしい薬です。

②放射線療法
 近年、都心や獣医大学のセンター病院で治療が可能になりました。扁平上皮癌やメラニン細胞の癌、肥満細胞腫などの増殖が盛んな腫瘍に有効です。

③活性化リンパ球療法
 人間や動物の体の中には、もともと癌ができないように、癌を攻撃するリンパ球やNK細胞、癌を攻撃するように指令を出すヘルパーT細胞、指令伝達物質のサイトカインなどの免疫が機能しています。活性化リンパ球療法は、自分の骨髄液を採取してリンパ球を1000倍に培養して静脈点滴で体に戻す治療法です。すべての腫瘍に有効と考えられ、自分の細胞を利用するので副作用の心配は極めて少ないです。しかし、まだこの治療は始まったばかりで、十分な情報が集まっていません。また、大きい腫瘍をやっつけることは難しく、外科治療や他の治療と組み合わせることで必要です。緩和治療としても非常に期待できそうです。当院は活性化リンパ球療法の臨床試験実施病院です。

④犬インターフェロンγ療法
インタードック.JPG アレルギー性皮膚炎や腫瘍に有効であると2005年に発売になりましたが、腫瘍に関しては十分な治療成績が無かったため注目されませんでした。しかし、最近になり治療実績の発表が増えています。外科治療やその他の治療法との組み合わせ効果が、非常に期待されています。製剤になっているので院内で簡単に投薬できることが大きなメリットです。
【画像:インタードック/犬インターフェロンγ製剤】








症例1:脂肪腫


脂肪腫.JPG 脂肪組織からなる良性腫瘍です。診察でよく見かける腫瘍です。脂肪腫は皮下織(皮膚の真下)に出てきます。
 顕微鏡で組織を検査した場合、正常な脂肪組織と同じようにみえます(左画像:良性脂肪腫)/400倍)。
 基本的には経過観察としますが、あまりにも大きなもの、擦って出血しやすい部分にあるものに関しては切除をお勧めします。







症例2:組織球腫


 組織球腫.JPG 犬(2歳メス)の前足の指間に、数日前から直径1㎝ほどのピンク色の丘疹ができ、来院されました。注射針で細胞を採取して院内で染色したところ、紫色の大きな核を持つ組織球という細胞が多数認められました。悪性所見はなく、若齢犬によくみられる良性の皮膚組織球腫と判断しました。