腰痛の診断
腰痛の診断方法
当院では、腰痛、後肢の麻痺、歩様ふらつき、歩行困難などが見られたときは、診察の時に神経学的検査を必ず実施しています。特に注意しているものは「踏み直り反応(placing)」「跳び直り反応(hopping)」「固有位置反応(proprioception)」などの反応と「膝蓋腱反射」「皮筋反射」「会陰反射」などの反射です。
反応は「局部の刺激が脳まで伝達され、脳からの指令が局部に適正に届くか」を見ています。反応が弱い場合には、大脳皮質の異常または伝達経路の異常が疑えます。次に、反射は脳を介さない不随意運動であり、脊椎分節で形成されます。「膝蓋腱反射」の場合は、第4~5腰椎にある脊椎分節で運動が形成され(膝頭を打つと足が前に出る)、この反射を大脳からの指令で抑制しています。「膝蓋腱反射」が弱いか消失していれば、第4~5腰椎以下の伝達経路に問題があり、反対に「膝蓋腱反射」が強い場合は脳から第4~5腰椎の間に問題があることがわかります。
椎間板ヘルニア
椎間板ヘルニアにより、後足や排便排尿機能に麻痺が起きてしまった場合は、早急な内科治療が必要です。椎間板ヘルニアは、突出した椎間板物質による神経の圧迫が原因ではなく、突出した衝撃による体内の反応が原因となります。この反応は、突出した衝撃によってまず好中球が集まり、エラスターゼなどのタンパク分解酵素を放出します。そして、脊髄神経に炎症が広がることによって麻痺が生じます。したがって、可能な限り早く好中球の暴走を止める必要があります。
当院では、コハク酸プレドニゾロンの静脈投与、または24時間かけてのエラスターゼ阻害薬の点滴投与を実施しています。内科治療で効果が不十分だった場合は、再生医療をおすすめします。自身の皮下脂肪から幹細胞を2週間かけて培養し、増えた幹細胞を静脈点滴にて投与します。自分の細胞を利用するため副作用の心配は少ないです。幹細胞を用いた椎間板ヘルニアの治療効果は、発病後2ヵ月以内でしたら80%ぐらいで改善が認められます。当院は獣医再生医療の臨床試験実施病院です。左の画像内の赤矢印は、培養した脂肪幹細胞です。
症例1:椎間板脊椎炎
問診にて腰痛の程度が通常の椎間板ヘルニアより強く感じたので、レントゲンを撮りました。 椎間板ヘルニアは脊椎造影検査をしなければわからないのですが、椎間板脊椎炎の場合はレントゲンで診断できます(左写真:胸腰椎の椎間板脊椎炎)。椎間板脊椎炎とは、椎骨終板及びこれに挟まれている椎間板に起こる炎症です。レントゲン画像では、椎間板腔が狭く映るのと同時に椎骨の端が白く硬化するのが特徴です。この症例では第12~13胸椎間(レントゲン写真内の矢印)が酷く、その後の第13胸椎~第1腰椎間と第1~2腰椎間にも異常が認められました。
椎間板脊椎炎を見逃すと、背骨が溶解し散歩中などに急に骨折する可能性があります。この部位が骨折すると前肢は伸展し後肢は麻痺するシフ・シェリントン症候群という状態になります。治療には、鎮痛剤のほかに長期の抗生剤内服が必須になります。ステロイドの使用は極力避けた方がよいでしょう。